初期作2 

やっぱりそのまま、だいたいほぼ。多少手直し。恥かしいのも歴史の層になる、と思いたい願望。




[[スローカーブ(宍鳳祭「Dolcezza!!」でも上げて貰っていました…今考えると羞恥…)]]


宍鳳祭「 Dolcezza !!」で、管理人UMI様が特別企画として書いていらした 宍鳳生活記『小ネタ其の3「電車の中」』をベースに書かせていただきました小話。
UMI様の文章では爽やかかつ可愛いかった宍戸さんと長太郎が、 なぜ良也が書くとこうも変質するのか……当時はもちろん読み返すと いたたまれなさ100%です…。
私の場合、書いているその作品のみでの設定が多すぎる、 というか次の話の時にはたいてい忘れているのが基本過ぎて今考えると勢いってっ!…怖いですね。
ままま、そういう方向で。(いつでもマイ前向きというやつですね)





「宍戸さんは、」
 大学とかってどうするんですかと言って、長太郎はコツンと頭をドア脇の壁にもたれさせた。
 
 発車を知らせる、ベルが車内に響いていた。
 あー?
「大学?って・・・、」
 言われて全然考えていない俺は、
「俺らまだ中学生じゃねえか。」
 照れ隠しつんどけに言った。
「そうですけど・・・、」
「・・・おー。」
 口ごもる長太郎を横目にドアに背もたれて、たった今放った自分の科白を反芻した。
 まだ、中学生。
 まだ・・・。
 でもそう、俺は・・・、
「ちょ、」
「高校はっ、」
 声をかけようとした俺を偶然だろうがさえぎるタイミングで、長太郎は小さく叫んだ。
 目を閉じて、
「・・・氷帝でそのまま行けるじゃないですか・・・。」
 なにか、募る思いを吹っ切るように言った。
 それから、
「宍戸さん。」
 はにかんだ長太郎に、
「長太郎・・・。」
俺は一瞬、見とれた。
 その時反対側で、扉が閉まった。
 9月。
 今年はまだ随分と残る暑さを冷ます為に、齷齪と空調が唸る。
 クーラーが微妙に効いた電車の中、少しだけ先のことが話題になった。


*


「テニスで推薦とか!宍戸さんなら行けますよ!」
 絶対です、と念を押して、長太郎は胸の前に持ち上げた拳を握った。
 乗車して数駅を立って過ごし、いつの間にか座席が空き出した頃、俺達はどちらともなく目配せをして座った。
「・・・別に、テニスプレーヤーなんて夢見てねぇぞ?」
 自分の膝に乗せたカバンとラケットケースにだるく肘をつきながら、
「俺は。」
 目を輝かせる長太郎に言った。
「えっそうなんですか?!」
 長太郎は俺を見て、自分もそれに習うように手にしていたラケットケースを胸の上まで持ち上げた。
「じゃあ何か他になりたいのがあるんですかー?」
 コテンと傾げて、ケースに耳をつける。
 こういう時に、
「あー?」
 こいつが上目遣いにするのは無意識なのかどうなのかも含めて、
「・・・・・。」
「・・・・・宍戸さん?」

「・・・・・・・だーーーーっ、」

 考えに混んで、黙った俺の顔を長太郎は下から覗き込む。
「わかんねぇよッ。」
 俺は、年下の奴に話題を出されるまでそれについて、考えてなかったわけではないが
  やや真剣味を欠いたまま受験生の半分を過ごしてしまった自分の、小さな見栄に叫び、
「今は部活でテニスが楽しければいい!」
 放り投げた。
 ちょこんと聞いていた長太郎は、
「宍戸さん・・・、」
 ちょっと呆れたようにそうなんですかと呟き、
「へぇー・・・。」
 とうなずいていた。
「・・・お前は?」
「へ?」
「ピアノとか・・・音大?か?」
 俺は逆に聞いてやった。
 返された長太郎は、
「俺のピアノとかバイオリンは趣味ですから。」
 ニコリと微笑んで、
「勿体ねぇなー。」
 惜しんだ俺に、 
「その程度ってことです。」
 と静かに言った。
 向い側で、座っていた青いランドセルの子供が颯爽と靴を脱ぎ躊躇いもなく下に放った。
 席の上に立つと、子供は手をいっぱいに伸ばしブラインドを下ろしていた。
 がしゃんと、引っ掛け閉める音がした。


 目の前には靴を履く小学生。
 左手には連なる車内。
 右手には長太郎。
 見上げて、延々と続く広告の釣りポスター。


 時々、不意に襲う日常の新鮮さに、色々なものが不安定になる。
 思いをはせる将来とか。
 夢とか、憧れとか、続けたいと思う気持ちとか。
 もっと貪欲に、もっと飛び上がりたい欲求と逆しま的な恐れとか。
 普段なら、さほど横に並ばないものが、身近に、簡単に入れ替わってあやふやにも傍にある。


「・・・大学に、」
「あ?」
「行っても・・・大学に行っても、」
 一定のリズムを刻んでいた走行音が僅かにゆるみはじめた。
「先輩とまた一緒に居れたらいいな。」
 独り言みたいに、
「俺・・・・・。」
 わかりづらい、ずっと先の方をのぞむようにして。
 斜め、向かいの車窓に流れる高層ビルの影を追いながら長太郎は呟く。
 次の駅の、アナウンスの開始。
 気を、涼やかにそぞろかせるメロディが流れた。

「次はー────」

 読み上げられる駅名。開閉方向の促し。
 ふと、床を座席から座席へ転がったのは空きのコーヒー缶。
 カラカラと重さのない音を回して、カツンと端に当たった。
 なだらかなカーブ。
 差し掛かって、西日が真っ直ぐに俺の目を先を照らした。
 一瞬、だけその鋭さに眩んだ。
 眇めて、隣を見た。
 僅かにずれたタイミングで目を眩ませる長太郎は自分をするように、ラケットケースを強く胸に抱いている。
 俺はこわばる左腕を、右手で剥がしてやるようにぎゅっと掴んだ。
 隣で、長太郎は息を飲んだ。
 横目に、びくりと口をはむ顔をさせながら、
「長太郎。」
 俺は腕を戻させなかった。


 何も、変わらないっていうのは無理だから。


 そして俺は、
「宍戸さん・・・。」
 俺らはそれを望まない。

 でも・・・。

 でも、だから、
「居てやるよ。」
 俺は言った。

 分からないけど。
 先は見えないけど。
 だからこそ、
「居てやる。」
 俺は声に出して願う。

 まだ、中学生だけど。 
まだ、中学生だから。

「宍戸さん・・・、」
「・・・おう。」
 長太郎は掴んだ俺の右腕を両手の平の中にギュムリと押さえ込むと、
「ちゃんと聞きましたからねっ。」
「ああ。」
「あとで嘘だって言っても聞きませんからねーっ。」
「はいはい。」
 座る、俺らの隙間に縫うように押しつけた。
「だからっ・・・だから・・・、」
 離しませんよ、と呟いた。
「上等だ。」
 もう一度、
「受けてたとうじゃねぇか!」
 俺は挑戦者の気持ちでニヤリと言った。

どこまで行っても、たとえ試合で、いっときを勝っても、人は勝者のままずっとそこに居ることは出来ない。
それはどこまでも果てはなく、続いてゆく。

だから俺は、挑みつづけてやる。
今は、冗談混じりにしか言わないけれど。
いつか、その時も、二人で居る為に。
ずっと一緒に居る為に。

クーラーの微妙に効いた電車の中で、少しだけ先の、自分をちゃんと見ようと思った。





[[ハニーショット/ShortShishidoVersion(こちらも、宍鳳祭「Dolcezza!!」で上げて貰っていました)]]


またまた投稿させていただきました小話。しかも今度は100%ナマ果汁。笑えません。今も昔も。
およそ集中力と呼ばれるもののまったくない良也が勢いだけで書き上げて恥もかまわず送りつけた…やばいね。
一世を風靡した「ハチミツレモン」も今は昔物語、から現在微妙に形をかえて復活。だからどうした。
いえいえ、この話のネタをはじめて思いついた時はどうしてももう一度 「ハチミツレモン」の飴が食いたくて食いたくて探しまくりましたがもちろん、
近所のスーパーにも100均にもなかったんですよ。だからどうした。
短い、宍戸さん、側。なんて名前がついているのだからもちろん短くない、長太郎視点のお話もあったのですが、
例により例のあれで本になることはなかったレモンジャック。随分、ねばって出そうかととは思ったのですが なにせ時すでに遅し。あまりにも時間が経ちすぎていました。
うん、もう出せないよね…うん、出せないね。とは脳内確認。だからどうした。
それにしても短い、短くないっていったい何の話なんだかだか。





 初めての時は、たんなる偶然。
 たまたまポケットに入っていて、
  そういや母親に入れられたんだったと思い出して、
  そこに、たまたま居合わせた長太郎にそれをやった。
 随分前の事だったが、それを、やった時の目の開きかたがちょっと
  気になったから今回、
  たまたま覚えていただけだったのだが、
「やるよ」
 俺はポケットの中にあったそれを掴み、長太郎の膝の上に転がした。
「僕、言いましたっけ?」
 長太郎は驚いた顔をしていた。
  どうして知ってるんだろうかと本気で考えている目をした。
「べつに」
 なんでもねーよと先に立ち上がった。
  やっぱり、長太郎の好きなものだったんだなと口の中で呟いた。
 辺りを見渡す。
  ガランとしたコンクリート畳。冷めかけた風が、吹き抜けた。
 屋上で、弁当を、二人きりでも当り前に食べるようになって
  どれぐらい経ったんだろうな。
 数える気はなく、しかしさほど長くはないその時間の事を考えた。
 ズボンの裾を荒くはたいた。
  
  それはたんなる偶然の、初めての時頃からじゃなかったかとふと
  思い出した。
 
  埃や砂が、ついてないことを確かめて、
「よっと」
 背筋をのばすべく腕を上げた。
 バンダナに、包み終わった弁当箱を膝に置いた長太郎は座ったまま、
「べつにって・・・」
 途切れた言葉をつぐように、
「宍戸さんっ」
 どういう意味ですかと問うような目が俺のなにげない動作ですら追う。
 地面に置きっぱなし、
  弁当のゴミを取り上げてそれに気がついた俺は現金なもんで、
「べつにはべつにだ」
 ちょっとウキウキした気分になっていた。
 長太郎の一喜一憂が、自分の一喜一憂にもなる。
 その事に気がついたのは、つい最近の事だ。

「宍戸さん!」

 トロトロとやっと昼食の片付けを終わらせて、
  ならって立ち上がった長太郎が詰め寄る。
「いらねーなら返せよな」
 それ、と指しながら俺は冗談で笑った。
「ええ?」
 そんなんでも面をくらった顔をして、
「嫌ですよ」
 長太郎は弁当の包みごと、それを胸に抱き直した。
「むむむー」
 と俺の目を見ながら後ずさる。
 かなり笑える。
  怯えつつもとりあえず相手を威嚇する犬のようだ。
「じゃあとっとと食えよな」
 俺は笑った。
「食いますよ」
 長太郎は口を尖らせた。
 ペリペリと包装をやぶり、まん丸のそれを目の前にして見る。
 横から、あんな形だったのか、と俺は思った。
 前の時はコイツ、
  ありがとうございますとだけ言ってポケットに入れやがったからな。
 初めて見る中身の実物を、俺は横から観察した。
 神妙な面持ちの長太郎は、
「いただきます」
 呟いてパクン、と口に放りこんだ。
 すぐは食えねぇだろう。
 5限が始まるまでにはまだ間がある。
  俺は出入り口、脇の、壁にもたれた。
 頬をいびつにふくらませた長太郎はこそっと、隣にもたれた。
「うまいか?」
 聞いてやったら、
「・・・・・うまひです」
 こもった声で返してきた。
 俺は、自分で持ってきといてなんだが、知らないその味を
  唐突に知りたくなった。
 そうか、
「それはよかった」
 言って、思いたちに、
  もごもごと口を動かす長太郎の前にすくりと立つ。
「?」
 ふにゃ、とかしげる首の後ろに手を回して、
「!」
 俺はまじかに顔を寄せた。
「しっししどっ」
 さん、と続くはずだったんだろう俺を呼ぶ声と呼気ごと、
「んん〜〜」
 唇を奪った。
「あっ・・・・・」  
 ついでに、
「ごちそうさん」
 半分以下ぐらいに小さくなった楕円の飴玉を
  前歯に挟んで長太郎に見せつけて、口内に収めた。
「んー」
 コロコロと舌で転がしてみる。
 それは小さなカケラだったのに思っていた以上に甘かった。
「ハチミツレモンって、甘いのな」
 俺は正直な感想を言ってみて、長太郎の方に向き直った。
 真っ赤になった長太郎の、笑顔ともなんともつかない
  表情がそこにあった。

「ひっひどい!」

 叫んで、逃げにかかる俺を後ろから、長太郎はがばり
  と肩からじゃれついてくる。
「ひどくねー」
 悠然に言いのけた俺に言葉を詰まらせた隙に、
「あっ・・」
 甘さの残る舌で、俺はもう一度長太郎の唇に触れた。
「甘くねぇ?」
 離した唇を頬に、触れるか触れないかの距離でうそぶいた。

「・・・甘いです」
 観念したように呟いた長太郎の笑みは、真上から降る
  秋口の陽光に彩られ、  カラメルのように輝いていた。
  思っていた以上に可愛かった笑顔に、

「・・・降参」
「はい?」
「俺の負け」
「宍戸さん??」

 俺は右のポケットから、
  もう一つ持ってきていた飴の包装をやぶき、口にくわえた。
 腰を抱き寄せると、なぜか目をつぶる長太郎の唇にゆっくりと
  押し込んだ。

「宍戸さん・・・」

 口付けを、ほどいた瞬間こぼれる長太郎の俺を呼ぶ声が、
  いつもより甘く感じた。
 それは9月、28日の昼下がり。誕生日前日の偶然。

「明日が楽しみだな」
「え?」
「楽しみにしてるぜ?」

 俺は腰を抱いていた腕に力を込めて、
  閉じ込めた長太郎の耳元に囁いた。