┼ 咎狗の血 アキラ&ケイスケ ┼
キミソラ2
扉を閉め、鍵をかけた。
脱いだジャケットをそのままに棚の上に置く。
靴紐を緩めつつ歩を進め、部屋の中程からキィを枕元へ投げた。
どさり、とベッド中央に身を投げてアキラは闇間の天井を見据えた。
深呼吸をする。
帰り着いたアパートはいつものようにかすかな埃の匂い。
灯りを点けようか。
水を飲もうかと思ったがこれ以上動くのも億劫で持ち上げかけた指で毛布を掴み、
靴を蹴り落としながら体を横たえ、毛布にくるまった。
ぺったりした布地に身を包みながらアキラは目を閉じた。
体をくすぶる疲労ではなくもっと言いがたい、
あやふやな感情めいたものが寝ることを強要した。
無理やり瞑った闇の中で渦巻く暗い文様。
その奥からする音の気配。
誰か。
誰かが自分に向けている。
ケイスケだろうか。
自分を呼んでいるのかも曖昧な誰かの発する音が目の奥で反響してぶつかる。
聴覚なのか視覚なのかありえない感覚が色をまとって唄い踊る。
要らない。
体を縛ってゆく眠りに引き絞られながら思考で叫ぶ。
止め。
じょじょに光を孕みながら近づいてくる何かに伝われ、と思う。
振り払いたいものは恐怖心なのではないと思う。
しかしその正体がなんなのか知っているような気がするのに、
言葉にしようとするとそれならない。
余韻だろうか。
予感かもしれない。
自分の意識を中心に過去へ未来と、
アキラは己を引き裂き両方同時に進んでゆく他者の意思のようなものを感じ取る。
誰、だ。
その途端に前触れもなく真っ白い光がアキラを飲み込んで夢の中に居るのだろうかとぼんやり認識、
するアキラを笑うように現実の音がアキラを起こした。
ドリルだろう。
アスファルトに突きたてられる掘削の機械の轟音がアキラを眠りから覚ました。
遮るもののない日差しはそれ強くなく、
音を辿り眺めたアキラがひょうし抜けするほど窓辺は薄暗かった。
曇る空が窓の上端から覗いていた。
身に絡まる毛布を剥ぎ取りながらアキラは立ち上がった。
時計の数字に目を落とす。
足先に冷たいものがあたりそれが裏返ったスニーカーであるのを見て溜息をついた。
表に返し、脇にどけてアキラは洗面所に向かう。
退屈な、我ことでありながら強く望むものもない日はすでに始まっている。
ロストした数時間を惜しいとも思わない。
アキラはそこに立つ自分の背後を映す鏡を見据えた。
(20060103)