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┼ 咎狗の血 アキラ&ケイスケ ┼


キミソラ1.5

そこへ行きたいような、行きたくないような。
俺は歩きながら砂利を蹴った。
夜の路地の、灯りの遠い路上は一人舞台。 塗りこめた闇は音を隠してはくれなかった。
撒き散らされた小石の滑る擦音は響き、転々と転がった。
行けば彼に会えるかもしれない。
けれど会えないかもしれないことを思うと意気は萎み、 そのくせより強く、
「アキラ…」
会いたくなった。
特にしたい話があるわけじゃない。
しなきゃいけない物なんて何もなくて、したい事もない。
何をしに来たのかと問われれば自分は何も言えず俯くばかりだろう。
自信がある。
気弱さと、自分にない自信に確信があるなんて、
「会いたいなぁ」
なんてバカ。
ただ、ただ彼に会いたかった。
そんな時。
路地を曲がった先に、目の前に彼が現れたのだ。
声をかけないでいられるはずがない。
「アッアキラッ」
「ん」
どもってしまった声に自分を叱咤しながら怪訝な声を出すアキラに俺は駆け寄った。
きっと突然で、暗闇のせいで自分が見えてないのだろう、 と彼の目の前に慌てて立ったのだが近づいたのに彼は俺を見ていなかった。
頭上からは緑がかった裸電球の光が落ちている。
この距離なら、
「っつ」
けして目の悪くないアキラの視界に入っていないはずがない。
だが否、彼の焦点は自分にはない。
訳はなくだが確信を感じて俺はもたつく不安に胸を押された。
アキラの、指だ。
自分ではないものに伸ばされたその指先は俺のつなぎに突き当たり、切ない動きで布地を手繰る。
アキラ?
アキラ?
彼は何を見ているんだろうか。
目の前に居る俺じゃなくて、それはどんな残酷な光景だ。
俺だよ?
ここに居るのは、
「ケイスケッ」
俺だよ?
「えッえっ」
名前を呼ばれたことに遅れて反応して、
「あ……」
俺はアキラが叫んだ声が自分の名前だったことに驚いた。
続くような、何かを言いかけたアキラはけれど待ち望む口を開いてはくれなかった。
「あっあの」
先を望んだ罰だろうか。
「ケイスケ…」
彼は掴んでくれた俺の服を意味のないことのように放した。
「アキラ」
自分勝手に落ち込む、気持ちがこぼれる前にと名前を呼んだ。
すまない、と口にするアキラの顔を見つめながら必死に考えた。
どうすればいい?
どうすることが、いいんだろう。
アキラの望むものを探して、
「こんばんわ」
でも何にも見つからなくて忘れたように、何もなかったかのように言葉だけ、 巻き戻したテープのように告げた。
引きつった笑みを、添えた。
「…よぅ」
それだけの短い声に、救われた。
「Bl@sterの、帰り?」
「あぁ」
アキラが頷く。
それだけで、自分が考えたことが無駄じゃなかったのだと思えて嬉しかった。
「そっか」
それを聞いたアキラが黙り込む。
再び曇る目の前の彼の表情に俺は焦って、
「…どうした?」
と尋ねるが、
「なんでもない」
低い声に答えられて俺は咄嗟に謝った。
「ごっごめん」
それはクセのようなもので、アキラと話している時はもちろん、 他の誰と話している時でもつい、思わずつい口にしてしまう言葉だった。
それが時に人のかんに触ることも知っていたけれどだからってそうそう、 性格なんて変わらない。
変えられないよ、
「べつに」
アキラ。
ごめん。
苛立つ様子を自分の中に、押さえ込もうとするアキラに俺は心の中でつい謝ってしまう。
緑色の光の下に佇み黙り込むアキラの顔は、陰影深い。
とても綺麗だと思う。
アキラは、何を考えているんだろう。
幼い頃から気弱な自分とは違い精悍な雰囲気を持っていた彼がそれでもまだ今よりずっと丸く、
あどけない表情を見せていた頃から俺達はずっと一緒に居たのに、
「ケイスケ」
アキラが考えるものがわずかすら、俺には判らない。
ゆっくりと顔を上げるアキラの瞳に映る自分の顔がどんなものになっているのか、
「なっなに」
自分のことすら満足に判らなくて俺は不安に押しつぶされる胸の音を聞いた。
体中に響く、心拍は信じられないほど冷たかった。



(20060102)